第1回アスリートセッション〜スポンサー獲得の極意

第1回アスリートセッション

〜スポンサー獲得の極意〜


アスリートとスポンサーはいかに出会い、支え合うのか。現役アスリートと元アスリート、スポンサーが当事者の立場から思いを語り合う初のオンラインセッション開催。


2020年12月9日、スポーツギフティングサービス「Unlim」を運営するアスリートフラッグ財団は、オンラインセッション「第1回アスリートセッション〜スポンサー獲得の極意〜」を開催した。アスリートが活動を維持・継続するために重要な「お金」にまつわる話を、アスリート側、スポンサー側、双方の視点で議論した。


 
 

登壇者

水内猛氏(MC):

元プロサッカー選手。1992年に浦和レッドダイヤモンズ入団。1997年にブランメル仙台(現、アビスパ福岡)で現役を引退した。現在はテレビ番組のキャスターや脳への適度な刺激で活性化を図るシナプソロジーの教育にも力を入れている。

伊藤剛臣氏:

元ラグビー日本代表。1971年生まれ。神戸製鋼のNo.8として全国社会人大会やトップリーグ優勝に貢献。日本代表としてはワールドカップ2大会に出場したほか、1998年アジア大会では主将も務めた。2017年に当時所属していた釜石シーウェイブス現役を引退。40歳を超えて一線で活躍し続けたラグビー界の「レジェンド」

緒方良行氏:

フリークライマー。2015年世界ユース選手権・ボルダリング部門で日本人初優勝のほか、国際舞台での活躍が光る新鋭ボルダリング選手。東京オリンピック、パリオリンピックへの出場とメダル獲得を目指し世界を転戦し、経験を積んでいる。ホリプロの社員でもある。

青木速斗氏:

Soccer Junky代表。ファッションレーベル「CLAUDIO PANDIANI(クラウディオ パンディアーニ)」などのブランドを擁し、サッカーをはじめとするスポーツJUNKY向けのユニフォーム、カジュアルウェアーや小物などを企画。明治安田生命J1リーグ所属の、横浜FCのサプライヤーも務めているほか、選手個人へのスポンサードも拡大している。

池橋敬雄氏:

ホリプロ人事、経営企画担当(部署名要確認)。1960年の創業以来「文化をプロモートする人間産業」を企業理念にタレントの発掘・育成を強みとするマネージメント事業を中心に、さまざまな事業を手がける推進する総合エンターテイメント企業。近年は現役アスリートのメディア対応をサポートするほか、引退後の選手に活動の場を提供する動きにも注力している。


 
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アスリートは自らを「商品」として認識し、アピールしないとスポンサーの目には止まらない。

 

第1回アスリート・セッションのメインテーマは「スポンサー獲得の極意」。アスリートが活動を維持・継続するためには、金銭、物資あらゆる面でのサポートが必要となる。そこで大きな役割を果たすのが企業や団体によるスポンサードだ。今回は、いかにスポンサーを獲得するのか、現役アスリートと引退アスリートに加えて、選手やチームを支援するスポンサー側がそれぞれの視点で語り合った。議論は「契約前」、「出会い」、「契約後」を大きな軸として、これらを3つのセッションとして進めた。

 最初のセッションは「契約前」。アスリートはスポンサーを獲得するためにどのような意識で活動するのか。またスポンサーはどのようなアスリートを支援したくなるのかについて話し合った。現役選手として今まさにスポンサーを求める立場の緒方選手は「大会の成績やコンプライアンス的なことは大前提」と指摘。「クライミング界、特に現在の日本男子は競技レベルが高い。誰をスポンサードしていいのかわからない企業もあると思っているので、キャラクターやパフォーマンスがかっこいいと思ってもらえる選手を目指している」と、見られている意識と魅せる意識の重要性に触れた。

 MCの水内氏は、チームスポーツではチームにスポンサーがついていたため個人でスポンサーを探すことはなかったと話しつつ、スパイクの提供を受けた際は契約金もあり、それがプロになったと感じた瞬間だったと振り返った。

 スポンサーがどのような視点で選手を見ているかという点について青木氏は「選手が自分自身をひとつの『商品』だとちゃんと認識している人」と指摘。競技力は前提としてSNSなども活用し、競技以外の面で露出をする努力や、自分自身を多くの人に知ってもらおうとする努力を評価していると話した。また、青木氏は若い選手が名刺を使って人脈を広げようとしていたエピソードも紹介した。

 池橋氏は、ホリプロではスポンサードではなく所属アスリートとしての「雇用」であることを説明しつつ、競技面以外の三つのポイントを指摘。まずはアスリートである前に一人の人間であること。二つ目は一般の社員たちが応援したいと思えるパーソナリティー、愛嬌や人懐っこさの持ち主であること。三つ目がマネージメント事務所としての視点でセカンドキャリアが描けるかどうかだと話した。


地味で「誰?」と言われるよりも、ものまねされるくらい「クセ」のある選手の方が良い。

 セッション2は「出会い」について。実際にアスリートとスポンサーが接触する機会はどのように生まれているのか。緒方選手は高校生時代にスポンサー獲得を目指し、競技と関わりがありそうな企業・メーカーへメールや電話で問い合わせをしていたエピソードを紹介した。

 青木氏は自身もサッカーをプレーしていることもあり、草サッカーやプライベートの人間関係から生まれる人脈が多く、競技内のつながりがきっかけのひとつとなることをうかがわせた。青木氏のもとにSNSを通じて毎日のようにスポンサードや物品提供の依頼があるという。「直接会いたいと会社に来た人もいた。やっぱりフェイストゥフェイスは強い。そこはデジタルが勝つとは思わない」(青木氏)と話した。緒方選手も、クライミング用品のメーカーやブランドが大会会場を視察した際には直接挨拶するようにしており、対面の重要性を認めた。「成績が足りないという厳しい指摘も受けることもありましたが、それを糧に頑張って、結果が出はじめた頃にスポンサードの声をかけていただきました」(緒方選手)

 アスリートが自身の存在を知ってもらうためには、髪型やビジュアル面で個性を出すことも重要だ。緒方選手は「クライミングは後ろ姿しか見えない。それでもわかってもらえるように登り方もキャラクターを感じてもらえるように工夫しています」と話した。現役時代は毎回ユニークなゴールパフォーマンスで知られていた水内氏も「目立つとメディアにも注目してもらえる」と自身の経験も紹介した。

池橋氏も「やはりパフォーマンスもスター性がないと様にならない。地味で『誰?』と言われるより、『あの人いいね』と言われる方が良い」と指摘した。「スター性」について青木氏は「クセのある人はいい。ウサイン・ボルト選手(陸上)や五郎丸歩選手(ラグビー)のようにものまねされやすいというのもポイントかもしれない」と話した。


 
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サポートする選手が目立つことは、企業やブランドにとってもメリットがある。世界も視野に入れWin-Winの関係構築が理想。

 最後のセッション3のテーマはスポンサーからの具体的な支援について。緒方選手はスポンサーによって支援の形はさまざまだとしながら、金銭的なサポートはモチベーションに影響すると話した。青木氏はサポートしている松井大輔選手がベトナムに移籍したことをきっかけに、ベトナムからの逆オファーやブランドの海外市場開拓につながった事例に触れ、サポートは単に選手側のメリットだけではないと話した。

 また、金銭以外のサポートとしては、展開するブランドのカタログにモデルとして起用することやファッション誌の広告記事にモデルとして露出機会を用意する例を紹介。出稿については「ブランドの認知獲得のためというよりも、選手の認知獲得のため」とメディアに露出する機会を提供するという支援の形があることを示した。マネージメント的な支援が主なホリプロの池橋氏は、選手のスポンサーを探すことが同社としての役割としながら、タレント活動など引退後の支援にも言及した。

 各セッションを終え、視聴者からの質疑も受け付けた。マイナー競技のチームがスポンサー獲得のためにすべきことは、という質問に対しては青木氏が画像の重要性を指摘。「今は必ず検索される時代。情報は文章よりも映像の方が記憶に残りやすい。スポンサードする側が必要な情報を得られるようなデジタル戦略が必要」(青木氏)と話した。

 池橋氏は「メジャー競技ではなくても話題になることはある。ネガティブになるのではなく、話題を生み出すような発信を考え、バズれば一気にスポンサー獲得という可能性はある」と話した。緒方選手は動画の重要性に加えて「クライミングは欧米ではじまった競技なので英語を使ってグローバルに展開することも狙っています」と、国内に留まらない視野を持つことの重要性にも触れた。

アスリートと企業やブランドが「Win-Win」の関係になるためにアスリートに対して求めることは何か、という質問には池橋氏が「一番は競技で成績を残すこと。結果が出ればサポートする我々も嬉しい気持ちになる。緒方くんも普通の社員には成し遂げられないことをできる可能性がある。私たちはそこに賭けています」と回答した。

約90分のセッションを通して、アスリートとスポンサーのあるべき関係について活発な議論が行われた。主催するアスリートフラッグ財団が提供する「Unlim」の説明では、青木氏や池橋氏がサポートする選手にも参加してもらいたいと話したほか、緒方選手も興味を示し、実際2021年2月から参加もはじめている。アスリートも団体、個人を問わず、自ら動き活動を維持・継続を目指す時代。新時代のアスリートたちのあるべき姿を考えるきっかけとなる時間となった。

貴宏 松崎