女子レスリング・中村未優の連載対談企画第1回「女性アスリートについて話そう」
女子レスリング・中村未優の連載対談企画第1回
「女性アスリートについて話そう」
女性のスポーツ実施率は、ほぼ全ての年代で男性と比較して低い現状にあるという統計があります(参考:スポーツ庁「令和元年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」)。
この背景には、身体的な理由や指導者の問題など、さまざまな課題があると考えられています。
一般財団法人アスリートフラッグ財団が提供するスポーツギフティングサービス「Unlim(アンリム)」では、SDGsによる社会の共創を目標に、女性アスリートが抱える問題や課題に向き合い、持続可能な競技スポーツ環境の創出に貢献していきます。そこで、彼女たちを取り巻く問題について改めて考えるきっかけとなることを目的に、Unlimに参加する女子レスリング50kg級・中村未優選手がさまざまな女性アスリートを迎え、女性アスリートをテーマにした連載対談企画をスタートします!
今年3月に大学を卒業した中村未優選手が、レスリングを始めたのは5歳の時のこと。全国中学生選手権での優勝を皮切りに、高校時代にはジュニア選手権などで4冠を達成し、2019年にはウクライナで開かれた国際大会で優勝。今、女子レスリング界における大注目の選手です。中村選手は現在「一般社団法人Sports Design Lab」に所属し、国内外でのトレーニングに加え、レスリングの普及や女性アスリートの支援活動を精力的に行っています。
今回は、対談企画に向けて、Unlimを運営する一般社団法人アスリートフラッグ財団の松崎貴宏事務局長が、中村選手が普段感じている女性アスリートの困難や課題、そして対談への意気込みについて聞きました。
コミュニケーションをとる大切さ
松崎: 小さい頃からレスリングを続けてきた中村選手ですが、どんな環境で練習をしてきたのでしょうか。また、これまでを振り返って、どのようなことが問題だと感じてますか?
中村:レスリングという競技の特性ももちろんあるのですが、地元のクラブや部活では、女性のコーチとスタッフが本当に少なかったですね。習っている子どもにしても、小学生の男女比は同じくらいでも、中学、高校と上がるにつれて女子はどんどん減っていきます。現在さまざまな地域のクラブを訪れて子ども達と練習する機会があるのですが、その状況は今も変わっていないと感じています。
松崎:年齢が上がるにつれて、女性がレスリングを続けることが難しくなっていくということですね。
中村:小学校高学年になると女子は体の変化もあるし、それにともなって気持ちの変化も起きます。やはり女性コーチの方が話しやすいし理解がされやすいと思いますが、その機会がなかなかないので、「言わずに我慢した方が問題が起きない」という思考に傾いてしまいがちです。でも、それでは有能な選手になり得る子ども達が競技を辞めることにつながってしまうし、女性コーチも育っていきません。議論できないということ自体が、ひとつ大きな問題だと感じています。
松崎:男性の理解が進んでいないのは、スポーツだけでなく社会全体に言えることですね。例えば、男性からすれば深く考えずに女性に言った言葉だとしても、そこに女性蔑視的な思想が潜んでいるということがある。これは日本の文化や歴史にも大いに関係してくることですが。
中村:男性が女性の体や心についてわからないのは当然だと思いますが、理解するために深く話し合うということが必要なのではないかな、と。強くなるためにはもちろん男性コーチと組んで練習することも必要だし、実際に私も今は男性のコーチといつも練習しているんですが、そこに至るまでの特に思春期の時期には、女性が男性との違いを感じて競技自体を諦めてしまうことが多々起きています。そういった面をしっかりケアして、コミュニケーションがとれる体制ができるといいですよね。
松崎:そうですね。中村選手が何か悩んだりした時は、どのように解決してきたんですか?
中村:私はけっこうオープンな性格で思ったことははっきり言うので、女性として何か嫌な思いをした時は相手に伝えますよ。自分を成長させるためにも。絶対に違う、という時にはきちんと言葉を発して行動していかなければならないと考えています。
松崎:SDGsではジェンダー平等と女性の活躍が目標に設定されていますが、例えば企業でいうと、企業価値や社会的意義を高めるためにそれを理念に掲げて表明することもしやすい。でもスポーツ業界では、社会に提示する理念や思想をチームが掲げるわけではないですからね。これまでの社会通念や体制を変えていくのはそう簡単ではありませんが、今は公益法人なども増えつつあるので、組織も個人も「自分ごと」に捉えてどんどん推進していかなければならないと思います。
中村:はい。「機会も利益も平等に」ということが基本にあるのが重要で、そのうえで男女ともにさまざまな選択ができるようになることが望ましいですね。
女性アスリートとの対話を通して
松崎:2020年2月にUnlim が設立して1年が経ちました。スタート当初から登録している中村選手ですが、今までUnlimを利用してみて何か感じていることはありますか?
中村:アスリートが主体となってファンの方とつながることができるコンテンツやサービスが今まではあまりなかったので、Unlimは私たちアスリートにとっても大きな励みになっていますね。今はアスリート自身もSNSで発信できる時代なので、どんなことを載せたらいいのか試行錯誤していますが(笑)。
松崎:トレーニングを頑張っている姿を伝えるなど、選手からファンの方々に発信する努力をしてもらう必要はありますが、選手が活動している限りは永続的に、選手が訴えかけるとファンが迅速な支援ができるということがUnlimの強みですね。
中村:昨年の12月に全日本選手権があったのですが、それまで新型コロナの影響でほぼ丸1年試合がなかったんです。練習場の確保も困難になってしまい、週2回、格闘技のジムでマット練習ができたらいいほう、という状況でした。最近は、私が所属しているSports Design Labがスタジオを構えたので、毎日練習できる環境が整ったことがうれしいです。今年の5月には全日本選抜選手権が開催されるので、しっかりトレーニングを積んで大会に向けて練習するぞ!と、改めて身を引き締めています。そのような思いもファンの方々に向けて発信していきたいですね。
松崎:応援しています。本日、中村選手と対談させていただいて、とてもまっすぐな方だという印象をもちました。厳しいトレーニングをこなし、結果を出している人がもつ意志の強さやひたむきさ、素直な性格にとても感銘を受け、この企画を絶対に盛り上げてくれる方だと確信しました。
最後に、これからさまざまな女性アスリートを迎えて対談をしていただきますが、話してみたいことや聞いてみたいことを教えてください。
中村:競技環境で疑問に感じていることなどを女性アスリートと話す機会自体が少ないし、私もまだ知らないことやわからないことがたくさんあるので多くの「気づき」があるのではないかと、とても楽しみです。異なる視点をもったアスリートの方々の意見を聞いて、対話をして、視野を広げることができたらうれしいです。
(中村未優選手_プロフィール)
1998年埼玉県生まれ。5歳からレスリングを始め、PUREBRED大宮で練習を積む。埼玉栄高校時代には、世界ジュニア選手権やJOCジュニアオリンピックカップでの優勝をはじめ、数々の大会で好成績を収め注目を集める。大学在籍時には全日本女子オープン選手権やウクライナ国際大会で優勝を果たし、直近で参加した2020年全日本選手権の成績は3位。一般社団法人Sports Design Lab所属。
(スポーツギフティングサービス「Unlim(アンリム)」とは)
スポーツを通じて社会に貢献したいと考えるプロアスリートの思いと、応援したいファンの思いをつなげることをめざし、2020年に始動した「Unlim」は、個人のファンがアスリートに応援メッセージを届けるとともに、金銭的なサポートを行うことができるスポーツギフティングサービスです。サービスを通じて、アスリートが抱える競技活動資金の不安を解消するだけでなく、アスリートとファンのつながりを生み出し、新たなスポーツ支援の在り方を追求することでスポーツや競技を盛り上げていくことが期待されています。
サービスURL:https://unlim.team