第2回アスリートセッション〜誰も教えてくれないスポンサーの増やし方〜

第2回アスリートセッション〜誰も教えてくれないスポンサーの増やし方〜


プロゴルファーはいかにスポンサーと出会うのか。現役女子プロゴルファーとスポンサー企業が支援獲得の秘訣を語る。


 2021年2月18日、第2回となるアスリートセッション〜が開催された。今回のテーマは「誰も教えてくれないスポンサーの増やし方」として、プロゴルフ界から有村智恵選手、山村彩恵選手とスポンサー枠として日本HPの平松進也氏を迎えて議論を展開した。近年若手選手の台頭も話題になることが多い日本女子プロゴルフ界のスポンサー事情はどのようなものかが垣間見えるセッションとなった。


 
 

登壇者

中西哲生氏(MC)

 元プロサッカー選手。名古屋グランパス、川崎フロンターレなどで活躍。引退後はサッカーの解説、コーチのほか、ゴルフ雑誌の連載やテレビ番組の出演もある。

 有村智恵選手

 日本HP所属。熊本県出身。2006年にプロ転向。

 山村彩恵選手

 サマンサタバサ所属。福岡県出身。2012年にプロ転向。

 平松進也氏

日本HP


目の前にいる人はスポンサーではなくても、どこかでつながっているかもしれない

 今回のテーマは「スポンサーの増やし方」。競技活動に集中し、継続していくためには多くのスポンサーからの支援を集めることも重要だ。今回は競技をゴルフに絞り、アスリートとスポンサーの関係を議論した。

 有村選手は初めてスポンサー契約を結んだときのことを「結果がマストという気持ちが生まれた。プロとして見られていると思い、肩に力が入ったのを覚えている」と振り返った。

 有村選手を15年間サポートし続けている日本HPの平松氏は、所属契約を結んだ理由について解説。当時の日本HPは日本国内での知名度が低く、認知の獲得が課題だった。また、事業も多角的に展開しており、異なる業務に取り組む社員の気持ちをまとめる必要性もあった。そこで新進気鋭の女子プロゴルフ選手と契約を結び、支援することで社内外の課題解決を目指した。

継続性に関しては、日本HPの考え方として「スポンサードの条件は単純に成績、知名度だけではないと考えている。有村選手が単に成績を残したいというアスリートの目線から、人間的に成長する過程を見ながら、私たちも一人の人間を応援したいという気持ちになり、気づけば14年経っていた」と話した。

契約を維持するために心がけていること、という質問に有村選手は高校時代からの友人でもある原江里菜選手の名前をあげ、プロアマ大会などで接するスポンサー、企業の方と丁寧に接することの重要性を指摘した。中西氏は「目の前にいる人がスポンサーではなくても、その人がどこかでスポンサー企業とつながっているかもしれないと考える想像力が大事。普段の振る舞いは最終的に自分に還元される」と話した。ただ、有村選手も最初からそうした対応ができていたわけではなく、日本HP主催大会など、国内のプロアマ大会が増加し、大会そのものがビジネスに貢献していることに気づいたという。


スポンサー候補との出会いの場で大切なこととは

 
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 バッグなどを扱うファッションブランド「サマンサタバサ」に所属する山村選手は、契約のきっかけは知人の紹介だったと説明し、人間関係もスポンサー契約には重要な要素であることに触れた。また、山村選手はプロアマ大会で一緒にラウンドした企業とスポンサー契約を結んだときのエピソードも紹介。出会いの機会を逃さないために山村選手が気をつけているのは「名前をちゃんと呼んで話すこと。ワンポイントのアドバイスやナイスショットの声かけなど、楽しく、気持ちよくコースを回ってもらえるように意識しています」と話した。

 スポンサーに対して自身ができること、これから心がけたいことについては競技力向上を一番にあげながら、有村選手同様挨拶や接し方の重要性も口にした。スポンサー企業も、アスリートを支援し、結果につながることは大きな喜びだ。平松氏は「ゴルフを通じて自分たちにできないことを成し遂げ、素晴らしいプレーをするだけで興奮します。加えて、プロアマ大会などでは競技以外の話もする機会があり、契約や関係性を心から楽しんでいます」と話した。

 山村選手へのアドバイスを求められた有村選手は、ゴルフはお金がかかるスポーツで、山村選手のみならずこれからプロになる選手、プロになってもシード権がなくQT(Qualifying Tournament)に出場する選手たちもスポンサー獲得が課題になっていることを指摘。そのうえで「タレント活動やYouTubeの配信など、プロの活動としてはどれも正解。自分がなりたい選手像と向き合う姿勢を見せることが大事。彩恵ちゃんはそのままで大丈夫だと思う」と話した。

契約してもいいかなと思わせるプロゴルファー像について平松氏は、企業にとっての顧客は選手にとってのファンに該当する存在であると指摘。「プロアマの会場やイベント、SNSなどを通じてファンを丁寧に扱う選手というのが一番の魅力だと思います」と話した。選手にとってのファンは、企業にとっても将来の顧客になりうる存在。そうした人々への接し方をスポンサー企業は見ている。


誠意を持って接すれば目に止まる機会は生まれる

 
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 SNSの活用については、山村選手からプライベートをどこまで見せていいのかという質問が出た。これに対して平松氏は有村選手のYouTubeチャンネルを例に、ゴルフも含めて発信することを楽しんでいることが重要で、そこに個性が発揮されるのであればある程度自由があるのではないかと話した。

 有村選手は自身が発信する際に気をつけているのは、自分が楽しめることとスポンサーへの配慮だと話した。また、最近は選手のことを検索するとSNSのアカウントが上位に出ることも多い。そこから人となりを知ることになるが「そこで全然投稿していないアカウントでも真面目にゴルフに取り組んでいると思ってもらえるかもしれないのでネガティブになる必要はない。むしろ自分がなりたい選手像や見られたい人柄から逸れないように、私も気をつけています」と話した。

 こうした有村選手の印象を、山村選手は「誠実」と表現。スポンサーはそういうところも見て応援したくなるのではないかと感想を述べた。このような有村選手の振る舞いは高校の先輩、宮里藍選手を見習ったと話し、身近な尊敬できる存在の重要性にも触れた。平松氏は、有村選手がプレーの好不調で人との対応を変えることがないことにも言及。苦しい時期でも応援する企業、人の存在を意識できるかどうか、支援する側も重視している。

 有村選手、山村選手は共に複数のスポンサーと契約している。そのように多くの機会を得て、支援につなげるコツはあるのか。山村選手は自身も支援を獲得したプロアマ大会で自分の長所や思いを伝えることをあげた。平松氏は「意図的に応援する選手を探しにきているわけではないが、当社のプロアマ大会でも一緒にラウンドした選手と契約したケースはある」と指摘した。

 有村選手は「今は若い選手もたくさんいて競争が激しくなっている。プロアマ大会の後にお礼状を書くか書かないかで印象に残るかどうか差が生まれる。シード選手やツアーで優勝するような選手でもお礼状は徹底している。ゴルファーとしての芯をぶらさないのは当然として、誠意を持って人に接していれば目に止まる機会はある」と話した。

 企業の人たちと会話をするためのコツとして有村選手は、プロアマ大会で誰と一緒の組になるかがわかった時点で、その企業のことを調べてからラウンドに入ると話した。平松氏も「選手が自社のことを知っているとうれしく感じる。若い選手だと自己PRが難しいかもしれないが、所属事務所などがうまくそこをサポートできれば良いかもしれない。有村選手は所属事務所もしっかりしていることも強み」と話した。山村選手は母親がそうした存在になっており、選手と企業の間に入る存在も重要だ。

中西氏はまとめとして「日本HPから有村選手への愛情を感じた。有村選手はその気持ちに対する感謝を表現しようとする。その気持ちが伝わるときに相乗効果が生まれて契約や支援関係につながる」と話した。競技に対する取り組み方が大事なことは前提として、一人の人間としてスポンサーやファンに愛される存在になることの大切さを指摘した。

貴宏 松崎